レオナルド・ディカプリオのすべてが宿っていた『レヴェナント』
1994年に『ギルバート・グレイプ』でオスカーにノミネートされて以来、『アビエイター』『ブラッド・ダイヤモンド』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』と、4度ノミネートされながら受賞を逃してきたレオ。
これらノミネート作以外においても、常に入魂の演技が高評価を得ていたにもかかわらず、
「なぜレオは受賞できないのか?」。
これは昨年まで何度も繰り返された質問だった。
筆者自身も過去に、ベテラン・アカデミー会員に前述の質問を投げかけたことがある。
そのときの返答は「レオはうまいが、何を演じてもレオになる」「彼はまだ若い。
その時期が来れば、いつか必ずとれるから」というもので、妙に納得した。
各作品で演じるキャラクターの肩書は違うものの、これまでレオが選ぶ多くの役に共通していたのは、キャラ自身が抱える内面の問題や外的な困難に立ち向かう、ちょっと悪いが、結局は魅力的な不屈の男という像。
観る者の胸をえぐるような、葛藤がにじみ出る悔し泣きの表情もおなじみだ。
前述のアカデミー会員は、これらの演技について「どれも本当に素晴らしいが、どのキャラを見ても、レオに見えてしまうことが難点」と説明した。
そして「その時期が来れば、いつか必ずとれるから」というコメントは、「君はまだまだできる」「辛抱強く待て」という期待と愛情の裏返しともいえる。
レオがオスカーを逃した過去4度の受賞者は、トミー・リー・ジョーンズ(1994年『逃亡者』)、ジェイミー・フォックス(2005年『Ray/レイ』)、フォレスト・ウィテカー(2007年『ラストキング・オブ・スコットランド』)、マシュー・マコノヒー(2014年『ダラス・バイヤーズクラブ』)。
いずれも素晴らしい演技であったことはもちろん、各俳優のキャリアにとってのハイライトでもあり、「今、オスカーを授与しなければならない」と思わせる何かがあったのだろう。
レオは“待てた”のだ。
◆レオナルド・ディカプリオのすべてが宿っていた『レヴェナント』
今回の『レヴェナント:蘇えりし者』は、厳しい自然と立ち向かいながら、復讐と魂の旅に燃える男の姿を描いたサバイバル・ドラマ。
レオは、菜食主義ながら生肉を食べて吐き、格闘シーンで鼻を折り、低体温症状態になりながら死んだ馬の体内で暖をとり、主人公と同じ、厳しい自然と立ち向かう迫真の演技を見せた。
2年連続でオスカー監督賞に輝いたアレハンドロ・ゴンザレス・イリャニトゥ監督が、同作へのレオの入魂ぶりに脱帽し、惜しみない称賛と信頼を寄せているさまは、多くの場面で報じられてきた。
そして、自然と人間の共存というテーマは、レオ自身のライフワークでもある環境問題とリンクするものでもあり、同作のなかに、レオナルド・ディカプリオのすべてが宿っているといっても過言ではない。
もう、期が熟したのだ。
もちろん、アカデミー会員各々によって、レオに票を投じた理由は異なるはずだ。
ただ、前述の会員の思いを考慮すれば、「レオがレオでなくなった」「うまい、のレベルを超えた」「その時期が来た」というコンビネーションが受賞をもたらしたと考えると合点がいく。
もちろん、各地の批評家協会、俳優仲間が集まる組合、外国人記者協会と、アカデミー会員のみならず、映画にかかわるあらゆる人々からの称賛を得ていたわけなので、今年のノミネート対抗馬と比べて文句なしのリードだったことはいうまでもない。
そして、実際にオスカーを受賞した後の世間の反応は、まさに「祝福の嵐」といえるものだった。
ソーシャルメディアは祝福コメントで溢れ、Twitterにおいては、オスカー授賞式の過去最高記録となる1分間に44万ツイートが発せられた。
コメントの多くに「ついに」「念願の」「文句なしの」といった言葉が躍り、レオのファンはもちろん、一般視聴者がこの瞬間を心待ちにしていたことがわかる。
各界のセレブリティたちもソーシャルメディアで祝福。
音楽界からは、アデルが授賞式前に「レオに幸運あれ!最高なあなたを、みんなが愛している。時計台の下でいつでも待っているわ」と『タイタニック』の名場面にかけたツイートを発し、話題となった。
さらに、カニエ・ウェスト、昨年オスカーで主題歌賞を受賞したジョン・レジェンド、オスカー司会の経験もある人気司会者のエレン・デジェネレス、女性メディア王のオプラ・ウィンフリー、人気スタイリストのレイチェル・ゾー、マペットのミス・ピギーらが遊び心いっぱいにツイートするなど、業界の垣根を超えた心からの祝福メッセージが続いた。
◆“ポスト・オスカー”のレオには何が待っている?
今回のオスカーは、俳優部門20枠をすべて白人俳優が占めたことを発端とした“白すぎるオスカー”問題で、授賞式参加・テレビ視聴ボイコットが相次ぎ、その俳優部門の象徴的存在であるレオを皮肉ったWEBゲームなども登場した。
授賞式の司会を務めたクリス・ロックも「レオには常にいい役が与えられる。ジェイミー・フォックスにも同等のチャンスが与えられるべき」という趣旨の発言をしていた。
オスカーの人種問題によって、レオを始めとする白人ノミネート俳優が直接批判の的になることはなかったものの(そして、なるべきではないものの)、授賞式自体に張り詰めた空気が流れていたという声もある。
こうしたなか、ウェストやレジェンド、ウィンフリーら、アフリカ系アメリカ人コミュニティの人気セレブリティたちが公に祝福の意を示したことは、それなりの意味を持つといえるだろう。
様々な議論を生んだ今年のオスカーであったが、レオの受賞に対する否定的な意見はほとんど見られない。
そして、受賞自体への祝福と並んで重要視されたのが、地球温暖化問題について熱い想いを語ったスピーチの内容だ。
『レヴェナント:蘇えりし者』の撮影体験と、2015年の気温が過去最高であった危機的状況を伝えたのちに、声なき声に耳を傾け、子孫のために尽力する政治家やリーダー支持の必要性を説いた姿勢に、称賛・感謝・同意の声が寄せられた。
俳優仲間のジュリエット・ルイスやジェシカ・チャステインらがレオの意見に賛同し、『ビバリーヒルズ高校白書」でおなじみのシャナン・ドハーティは「レオナルド・ディカプリオを大統領に。これほどまでに説得力があり、教養と見識に長けた人なのだから」と、大混乱中の米大統領選を意識したツイートを放った。
世界44ヶ国以上の環境保護プロジェクトに3000万ドル以上を寄付しているレオ。
このスピーチを聞いたとき、「今の受賞だからこそ、意味がある」と感じた人は少なくないはずだ。
「なぜ、レオは受賞できないのか?」が分析されることは、もうない。
では“ポスト・オスカー”のレオには何が待っているのだろうか?
米フォーブス誌のスコット・メンデルソン氏は、昨年末に「レオがオスカーを受賞すべきでない理由」と題した記事のなかで、
レオを「絶頂期のトム・クルーズに匹敵するスター性を持ちながら、R指定&社会問題提起という作品に積極的に挑み、数々の実力派監督の作品のなかで最高レベルの興行収入も稼げる、正真正銘の映画スター」と表現。
そのうえで、オスカーを受賞することにより、そのレオの映画俳優としての姿勢や行方に変化が出てしまうことを恐れていると、ユーモアを交えながら論じている。
レオ自身が実際に、どれほどオスカーにこだわっていたかはわからない。
それでも、ひとつの目標を達成したことにより、今後、環境問題に専念したり、プロデューサー業に徹したり、オンライン配信メディアなどで新境地を開くことを考える可能性もあるだろう。
こうしたなか、映画界が誇る稀有な映画スターとして、これからも今まで同様に、素晴らしい映画を生み出し、入魂パフォーマンスを見せてほしいと願うのは、メンデルソン氏だけではないだろう。
今回の受賞を心から祝福しつつ、さらなる飛躍を遂げるレオを応援していきたい。
(文:町田雪)
by leonardo_D | 2016-03-15 19:45 | レオニュース